「高い場所にいると、魂が堕ちる」というのは、あながち的外れじゃないのかもしれません。
20年ほど前の話になるが、一人の経済学者が学者稼業に嫌気が差して、ベイグル売りに転身した。朝になると、ワシントン周辺にあるオフィス街を訪れて、方々の会社のカフェテリアにベイグルと代金入れを置いていく。午後になると、売れ残ったベイグルと代金入れを回収しに戻る。さすがは元経済学者と言うべきか、そのベイグル売りは、持ち去られた(食べられた)ベイグルの数と売上代金のデータを事細かに記録しており、そのおかげで人がどんな状況で不正直に振る舞うかを推測することが可能となったのだ。
ベイグル売りに転身した元経済学者の名は、フェルドマン。
フェルドマンは、データよりも自分の経験に基づいて、人の正直さについて他にも独自の結論を得ている。・・・(略)・・・さらに彼は、会社での地位が高い人のほうが低い人より支払いをごまかすことが多いと考えるようになった。そう思うようになったのは、フロア3つ――一番上が役員フロア、下2つが営業、サービス、管理に携わる従業員のフロア――に分かれた会社に何年も配達を続けてからのことだった(役員たちの特権意識がいきすぎてそういうことになったのかもとフェルドマンは考えている。・・・(略)・・・)。
スティーヴン・D・レヴィット&スティーヴン・D・ダブナー(著)/望月 衛(訳)『ヤバい経済学』(東洋経済新報社、2006年), pp. 61.
出世の階段(あるいは、はしご)を昇っていって「高い場所」――物理的な意味でも、ステータスの意味でも――に辿り着いた人たちは、特権意識がいきすぎて魂が堕ちてしまった(支払いをごまかすという不正に手を染めがちな)んじゃないかというわけですね。
「偉くなると、魂が堕ちる」ってまとめたいところですが、そうとは限らないかもしれません。
そもそもそういう連中はインチキしたからこそ役員になれたのかもってことだ(上掲書, pp. 61)。
「魂が堕ちてるからこそ、偉くなれる」というわけですね。
「偉くなると、魂が堕ちる」のか、それとも「魂が堕ちてるからこそ、偉くなれる」のか。因果関係を証明するというのは、なかなか厄介な仕事みたいですね。
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