科学が宗教にインスピレーション(着想)を与える・・・というのとはちょっと違いますが、科学が宗教性を帯びるってことはあるかもしれません。高度に発達した科学は、時に神秘的に映ったりしますからね。
「・・・(略)・・・わたしはかれらを操ってたがいに牽制させた。それぞれをかわるがわる援助してやった。かれらに科学、貿易、教育、科学的医療を提供してやった。わたしはターミナスを軍事的に魅力のある存在というよりはむしろ繫栄する世界として、かれらにとってより価値あるものにしたのだ。この政策は30年間、有効に働いている」
「ええ。しかし、あなたはこれらの科学的な贈り物を、言語道断な宗教まがいの儀式で包まねばならなかった。あなたは、それで擬似宗教を、茶番劇を、作り上げた。あなたは僧侶の階級制度と、複雑で無意味な儀式を作りあげた」
ハーディンは眉をひそめた。「何をいっているんだ? 今までの議論とそれとどんな関係がある。たしかに最初はそういうやり方をした。野蛮人たちがわれわれの科学を一種の魔法と見なしたからだ。そして、そういうベースで受け入れることがかれらにとって容易であったからだ。司祭制度は自然発生的に出てきたものだ。たとえ、われわれがその発達を手助けしたとしても、それはもっとも抵抗の少ない道をたどったというだけのことにすぎない。取るに足りないことだ」
「しかし、そういう司祭どもが原子力発電所の権限を握っているではありませんか。これは取るに足りないことではありません」
「そうだな。しかし、われわれがかれらを教育したのだよ。その設備にたいするかれらの知識は、経験的なものだ。そして、自分らを取り囲む狂言役者に、かれらは絶大な信頼を寄せている」
アイザック・アシモフ(著)/岡部宏之(訳)『ファウンデーション――銀河帝国興亡史〈1〉』(早川書房、1984年), pp. 142-143.
ハーディンはかれを見上げて、にやりとした。「葉巻を取りたまえ! 旅はどうだった?」
ヴェリソフは自分で葉巻を取った。「おもしろかったです。隣のキャビンに、放射性合成物の調製の――ほら癌治療に使うやつです――特別講義に出席するためにこちらにくる司祭が乗っていて――」
「おいおい、そいつは放射性合成物なんて呼びはしなかったろうな?」
「まさか! かれにとっては “聖なる食物” でした」
市長はにっこり笑った。「それからどうした?」
「やっこさん神学的議論にわたしを巻きこみまして。最善を尽して、あさましい唯物論から引き上げてくれました」
「それで、自分の上役の祭司長だとは気づかなかったのか?」
「あの緋の衣を着ていないのにですか? しかも、かれはスミルノ人でした。でも、おもしろい経験でした。科学の宗教ががっちりと急所を摑んでしまっていますよ、ハーディン。・・・(略)・・・」(同上, pp. 149)
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